お見合い 2019 5 6

「地ビールの生ビールは最高だな」
 衆議院議員の秋川慎次は、
永田町近くのホテルのバーカウンターで、
一気に飲み干した。
 2杯目も地ビールを飲みたいところだが、
マリブサーフに切り替える。
 透明感がある青は、
バーカウンターの照明に冴える。
 幹事長も幹事長代行も、地元選挙区へ帰るために、
早めに党本部を後にした。
 副幹事長の慎次にとって、
「これは、千載一遇のチャンスだ」と思い、
幹事長代行の車が党本部から遠ざかるのを確認してから、
帰り支度を急いだ。
 党の要職にあるとはいっても、
慎次は、30代後半で、まだ青年のような雰囲気を残していた。
 父の突然の引退宣言を受けて、
史上最年少で当選、当時はマスコミが大騒ぎしたものだ。
秘書だった兄の不慮の事故が父の引退を決意させたのかもしれない。
 チリに赴任していた慎次は、急遽帰国して、
大学生の就職活動のランキングでは、
常に上位に入っている総合商社に退職願を提出してから、
もう10年以上が過ぎてしまった。
 もうすでに、慎次は、政務官、副大臣を歴任して、
今は、党の副幹事長の地位にある。
 マスコミは、「副総裁だった父親の七光り」と揶揄したが、
猛烈に働く慎次を見て、マスコミは「将来の総理候補」と言うようになった。
 マリブサーフの美しい青が輝く。
後援会の幹部は「早く結婚しろ」とうるさかったが、
「せめて恋愛だけは自由にさせてほしい」と、
父に長年仕えた長老幹部に懇願した。
 それでも、年齢が30代後半になると不安を感じるようになった。
「党務で忙しい俺には、出会う機会がない。
副幹事長の職責を全うすると、もう40代に入ってしまう」
 そんな時、バーカウンターで、偶然の出会いがあったのだ。
理沙子は、うつむくと、
美しい髪がカンターについてしまうと心配になる。
 「遅い」
やっと電話が鳴る。
電話の相手は、警視庁の外事警察だった。
「先生、折り入ってお話があります。
お時間をいただけないでしょうか。
実は、Z国情報部門の工作活動についてです」
 マリブサーフがこぼれる。
「偶然の出会いではなかったのか」
 Z国情報部門は、慎次が「将来の総理候補」と見込んで、
「偶然の出会い」を狙っていたのだ。
 さて、以上は、架空の話です。
昔の日本では、「お見合い」という結婚制度がありました。
 本人に代わって、両親あるいは両親の知人が、
本人にふさわしい結婚相手を探して本人に紹介するという制度です。
 人生経験が豊富な人たちが探す結婚相手なので、
おそらく本人にふさわしい相手だと思います。
 もちろん、気に入らない相手だと思ったら断ればよいのです。
両親たちは、また新しい相手を探してくれるでしょう。
最近は、お見合いで結婚したという話を聞かなくなりつつあります。















































































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